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大阪地方裁判所 昭和31年(行)81号 判決

原告 寺島数衛

被告 大阪国税局長

主文

原告の請求を棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

事実

原告は原告の昭和二九年度分の総所得金額を七八六、〇〇〇円とした訴外東住吉税務所長の更正決定に対する原告の審査請求につき被告が昭和三一年一一月三〇日付でした棄却決定は二三三、八八〇円を超過する部分につきこれを取り消すとの判決を求め、その請求の原因として、原告は東住吉税務署長に対して昭和二九年度分所得税に関し、確定申告として同年度の事業(営業)所得五六、四〇〇円、不動産所得第一七七、四八〇円計二三三、八八〇円を総所得金額として申告したところ、右税務署長は昭和三〇年九月九日付をもつて右金額を事業所得五六、四〇〇円、不動産所得七二九、六〇〇円総所得七八六、〇〇〇円と更正決定をした。原告は右決定に対して同税務署長に再調査の請求をしたところ、同税務署長はこれに対する調査と決定を行わず、みなす審査請求として被告に送付した。被告は昭和三一年一一月三〇日付を以て右請求を棄却する旨の決定をした。

しかしながら原告の同年度の所得金額は申告のとおりであるから右決定は違法である。よつて原告の申告所得額二三三、八八〇円を超過する部分の取消を求めるため本訴請求に及んだと述べた。(立証省略)

被告指定代理人は主文同旨の判決を求め答弁として、

原告主張の請求原因事実は被告の昭和二九年度分の不動産所得が一七七、四八〇円であるとの点及び被告の決定が違法であるとの点は否認し、その余は全部認める。原告は大阪市東住吉区駒川町八丁目一三番地に事務所を持つて不動産仲介業を営んでいるほか、駒川町商店街に所在する自己所有の店舖二軒と訴外鯉谷重之助から借り受けている店舖五軒を貸店舖として他人に貸し付けており、この両者から上る収入によつて生計を立てゝいる。原告の昭和二九年度における不動産所得の真実の額は次のとおりである。すなわち同年度において原告は前記店舖を左記のとおり賃貸している。

店舖所在地    借主氏名   職業   月額賃料(単位円)

駒川町七丁目二二 景山守人  卵小売商 一〇、〇〇〇

同        安達一     糸商 一〇、〇〇〇

同     二一 本田太一   呉服商 一五、〇〇〇

同        広岡平治   雑貨商 一五、〇〇〇

同        竹中信之助  毛糸商 一〇、〇〇〇

同        岩本幸太郎 天ぷら商 一〇、〇〇〇

同        音川芳次郎  塩干商  六、〇〇〇

合計                  七六、〇〇〇

右のとおり一ケ月の賃料収入は七六、〇〇〇円であり年間賃料収入は九一二、〇〇〇円となるところ、原告の同年度における右店舖の必要経費は五〇、五二〇円であつてこれを差し引くと同年度における原告の不動産所得は八六一、四八〇円となるのである。そしてこれに当事者間に争のない不動産仲介業による事業所得五六、四〇〇円を加えると九一七、八八〇円となりこれが同年度の原告の総所得金額である。右金額は訴外東住吉税務署長の更正決定額七八六、〇〇〇円を上廻つていることは明らかである。従つて同税務署長の更正決定は何等違法でないし、これを容認した被告決定も適法であるから、原告の本訴請求は理由がないと述べた。(立証省略)

理由

原告が訴外東住吉税務署長に対し昭和二九年度分の所得税に関し、確定申告として同年度の事業所得を五六、四〇〇円、不動産所得を一七七、四八〇円、計二三三、八〇〇円を総所得金額として申告したところ、右税務署長は昭和三〇年九月九日付を以て右金額を事業所得五六、四〇〇円、不動産所得七二九、六〇〇円総所得金額七八六、〇〇〇円と更正決定をしたこと、原告は右決定に対し右税務署長に再調査の請求をしたところ、同税務署長はこれに対する調査と決定を行わず、みなす審査請求として被告に送付したこと、被告は昭和三一年一一月三〇日付を以て右請求を棄却する旨の決定をしたことは当事者間に争がない。

原告は前記更正決定中不動産所得七二九、六〇〇円の認定を争うので以下この点につき判断する。成立に争のない乙第六号証同第七号証、証人中西繁男の証言によると原告は大阪市東住吉区駒川町八丁目一三番地と同町七丁目二一番に事務所を持つて不動産仲介業を営んでおり、又同町七丁目商店街に所在する自己所有の店舖二軒及び訴外鯉谷重之助から借り受けている店舖五軒を貸店舖として他人に貸し付けており、この両者から上る収入によつて生計を立てゝいること、昭和二九年一月乃至同年一二月までの右店舖の賃借人は訴外景山守人、同本田太一、同広岡平治、同竹中信之介、同岩本幸太郎、同音川芳次郎であることがそれぞれ認められる。右認定を覆えすに足る証拠はない。被告は当時右店舖の一軒を訴外安達一が賃借していたと主張し証人中西繁男の証言中には安達が賃借していた旨の証言がある。しかし証人安達卓雄の証言と対比して考えると中西証言中の右安達とは訴外安達卓雄を指すものと認められ、しかも右証人安達卓雄の証言によると同訴外人は昭和三〇年一月より右店舖の一軒を賃借するに至つたことが認められるから、この証人中西繁男の証言によつて被告の前記主張を認めるわけにはいかない。そして他に右主張を認めるに足る証拠はない。次に証人広岡平治の証言により同訴外人の当時の賃料月額は少くとも一五、〇〇〇円を下らないこと、証人本田太一の証言により同訴外人の同賃料が一五、〇〇〇円であること、証人中西繁男の証言により訴外竹中信之介の同賃料一〇、〇〇〇円を下らないこと、証人音川芳次郎の証言により同訴外人の当時の賃料日額が二〇〇円であり平均月額が六、〇〇〇円を下らないことが認められる。更に乙第六号証、証人中西繁男の証言によると訴外安達卓雄(但し当時は未だ賃借していなかつたことは先に認定したとおりである。)、同竹中信之介、同岩本幸太郎、同景山守人の賃借店舖は同じ商店街通りに面し、その外観規模の程度はほぼ同一であることが、又証人安達貞雄の証言によると同訴外人の昭和三〇年一月以降の賃料月額は一五、〇〇〇円であることがそれぞれ認められるところ、これら事実に先に認定したとおり訴外竹中信之介の昭和二九年度中の賃料月額が一〇、〇〇〇円を下らない事実を併せ考えると訴外岩本幸太郎、同景山守人の同年度の賃料月額も少くとも各一〇、〇〇〇円を下らないものと認めるのが相当である。もつとも成立に争のない乙第一〇号証の一、二、同第一二乃至第一四号証の一、二によると被告の照会に応じ賃料月額を訴外岩本幸太郎は、二、〇〇〇円、同竹中信之介は一、五〇〇円、同広岡平治は四、〇〇〇円、同本田太一は一、五〇〇円と回答していることが認められるが、これら回答内容は前記各証拠に対比して措信できない。他に以上の賃料認定を左右し得る証拠はない。そうだとすると右店舖の賃貸による原告の昭和二九年度の不動産収益は少くとも合計七九二、〇〇〇円を下らないことは明らかである。そして原告は右収入から控除されるべき同年度の店舖の必要経費につき何等主張立証するところがないから、右経費は被告の自認する五〇、五二〇円と認めざるを得ない。よつてこれを前記収入より控除すると七四一、四八〇円となり、原告の不動産所得は少くとも右金額となる。

そして右金額に当事者間に争のない同年度の事業所得五六、四〇〇円を加えると原告の同年度の総所得金額は寡額に見積つても七九七、八八〇円となり、訴外東住吉税務署長の更正決定額七八六、〇〇〇円を上廻つていることは明らかである。従つて同署長の右決定は適法であり、この決定を認容し原告の審査請求を棄却した被告の審査決定も又何等違法ではないというべきである。以上のとおりで原告の本訴請求は理由がないから、訴訟費用の負担につき民訴八九条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 入江菊之助 山口幾次郎 野口栄一)

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